シーラスSRシリーズの翼は、スピンに入りにくい特殊なデザインになっています。
上の写真でもお分かりのように、翼の前縁(リーディングエッジ)にはっきりとした段差があります。
シーラス機の翼は、内側と外側で迎え角を変えているため、失速する際には、迎え角の大きい内側から失速が始まります。そのとき翼の外側にあるエルロンはまだコントロールが効く状態にあるので、不意に失速して機体のバランスを崩しても、エルロンによって直感的に姿勢を立て直すことができ、スピンに陥るリスクを最小限に抑えられます。
これによって、シーラスSRシリーズは、FAA(米連邦航空局)からスピン耐性認証を受けています。
実は、これはNASA(米航空宇宙局)が開発した技術なんです!
1970年代、NASA最古の研究施設であるラングレー研究所で、自家用小型機の失速・スピンに関する研究が始まりました。
自家用パイロット免許を取得する際の試験では、日本でもアメリカでも、失速からの回復が必須項目になっています。また、(上空で実施する必要はありませんが)スピンから回復する方法も教わります。
ただ現実的には、意図せず失速状態に陥ったとき、冷静に対処できるパイロットばかりではありません。痛ましい事故を減らすためには、根本的にスピンに入りにくい翼の開発が急務でした。
国を挙げて研究を重ねた結果、1994年、Advanced Aerodynamics and Structures社の「ジェットクルーザー450」という6人乗りの小型飛行機が、初めてFAAからスピン耐性認証を取得しました。
ジェットクルーザー450 画像は「Barrie Aircraft Museum」より引用。こちらのサイトには機種の詳しい説明が載っています。 |
その後、1998年に、シーラス社の「SR20」と、ランスエアー社の「コロンビア300」(現・セスナ350)がスピン耐性認証を取得しました。
シーラスSR20 |
コロンビア300(NASAラングレー研究所で使用されていた実験機) 少しわかりにくいですが、シーラス機と同じように翼縁の中ほどに段差があります |
現在市場に広く出回っている機体としては、シーラス社のSR20、SR22、SR22Tと、ランスエアー社のコロンビア300、コロンビア350(現・セスナ350)が、FAAが認めたスピン耐性のあるデザインの翼を採用しています。
NASAが自家用小型機のための技術開発に何十年も力を注いできたというのは、意外な事実でした。大小多数の航空機メーカーが拠点を置く航空大国ならではの力の入れ様ですね。
なお、シーラスSRシリーズには、手動操縦中に速度・ピッチ・バンクが危険な値になると、オートパイロットが作動して安全な値までリカバーする「自動リカバリーシステム」が装備されています。そのため、失速・スピンに入るような動作を行うこと自体が、通常は不可能になっています。(※1)
複数の安全機能を組み合わせることで、シーラス機は高度な安全性を保っています。
今後もシーラス機の様々な安全機能をご紹介してまいりますので、ご期待ください!
※1 リカバーしようと動く操縦桿にパイロットが更に力を加えて抵抗すると、システムは解除されます。また、訓練や試験のため、意図的に失速させるような操作を予定している場合は、あらかじめシステムを不作動にしておくことも可能です。