
シーラス社が新しく開発した単発ジェット機「Vision SF50」のデリバリー開始まで1年を切った今、シーラス・エアクラフト社の共同創立者/CEOであるDale Klapmeier氏が筆を取り、Vision SF50開発の根底にあった理想と構想について語りました。
実は、Klapmeier氏は、ある"新型飛行機"の構想を胸にシーラス社を設立しました。その"新型飛行機"こそが今日のVision SF50です。
今回は『Flieger Magazine』誌に掲載されたKlapmeier氏の談話から、シーラス社の歴史とVision SF50の開発秘話を紐解いていきたいと思います。
Klapmeier氏が"新型飛行機"の構想を得たのは30年以上前に遡ります。その構想を現実のものにするため、1984年、シーラス・エアクラフト社が設立されました。
"新型飛行機"のアイデアが最初に具現化されたのは、1988年にシーラス社が最初に発売した飛行機「VK-30」です。VK-30は、プロペラを機体後部に設け、ターボチャージャーを搭載するなど、非常に独創的な飛行機でした。
シーラス社が最初に発売した飛行機「VK-30」
Klapmeier氏は、VK-30の成功から、後にシーラス社の航空機開発の指針となる重要な発想を得ました。それは、当時の航空機メーカーがおろそかにしがちだった点、たとえば、最新のハードウェアとソフトウェアの融合、シンプルかつ簡単な操縦、パイロットと乗客の快適性などに力を注ぐこと。そして何よりも安全性を重視することです。
その結果、VK-30に続いて開発された「ST-50」「SR20」「SR22」「SR22T」は、いずれも小型機業界に新たな風を吹き込む存在になりました。
1992年に開発された「ST-50」は、VK-30とよく似た外見で、与圧キャビンや様々なシステムを備えた斬新な機体でした。"新型飛行機"、つまり今日のVision SF50により近く迫った機体と言えます。
「ST-50」
1999年には、シーラス社が初めて本格的に製造販売を行った航空機「SR20」のデリバリーが開始されます。
SR20と、その上位モデルのSR22、SR22Tは、まさに上記の指針を忠実に守って設計された機体でした。SRシリーズは世界中で大ヒットを遂げ、2013年には全世界を対象にした小型飛行機の販売機数で堂々の1位に輝きました。2014年もその王座を譲っていません。
5000機目に製造されたSRシリーズの機体。記念の特別塗装を施している。
シーラス社設立以前からKlapmeier氏が抱き続けてきた"新型飛行機"開発の夢が、いよいよ現実的なプロジェクトとして始動したのは2006年のことです。
"Vision SF50"と名付けられた"新型飛行機"の最初のプロトタイプ機「V1」が、2008年7月3日、初飛行に成功。この日はシーラス社にとって記念すべき日になりました。
Vision SF50 最初のプロトタイプ機「V1」
2012年4月に、Vision SF50開発に対する予算が承認されると、開発計画は加速します。
Vision SF50の開発にあたって、Klapmeier氏が特に重視した二つの点は「シンプルさ」と「快適性」です。
従来の高性能ジェット機を飛ばすには複雑なシステムを使いこなす必要があります。しかしKlapmeier氏は、シンプルさと安全性、そして何よりも、飛ばすことの楽しさに対して妥協するつもりはありませんでした。
結果、Vision SF50は極限までシンプルに設計され、システムの操作や情報へのアクセスは、ガーミン社製G3000アビオニクスを改良することで従来よりも簡単に行えるようになりました。操作性だけでなく、キャビン内部の設計にも細心の注意が払われ、パイロットと乗客が長旅の間も快適に過ごせるようになっています。
そして、シーラス社が最も重視している「安全性」については、SRシリーズですでに実績のある緊急用パラシュート「CAPS (Cirrus Airframe Parachute System)」を標準搭載しました。
こうして、ビジネスユースにも耐えられる性能を持ちながら、オーナー自らが操縦することも可能な画期的な小型ジェット機が誕生したのです。
Vision SF50 型式証明取得試験用のプロトタイプ3号機「C2 (C-two)」の初飛行
2014年3月24日、「Vision SF50」型式証明取得試験用のプロトタイプ1号機「C0 (C-zero)」が初飛行に成功。同年11月25日には2号機「C1 (C-one)」、12月20日には3号機「C2 (C-two)」が初飛行に成功し、現在は試験飛行の最終段階にあります。
Vision SF50は、2015年末にデリバリーを開始する予定です。
"すでにVision SF50に対する期待と関心の声が続々と寄せられているが、市場の流れを変えるこの斬新なジェット機がどのような地位を築くのか、それは私にもまだわからない"
――― Klapmeier氏は、そう結んでいます。
30年以上の歳月をかけた夢の集大成は、いよいよ完成間近です!
JGAS AVIATION BLOGでは、今後もVision SF50に関する新しい情報を続々とお届けしていきます。ご期待ください!