
近年、VLJ (Very Light Jet, 超軽量ジェット機)と呼ばれる、従来のビジネスジェットよりもさらに小型のジェット機の市場が精力的に開拓されています。
ここ最近、日本でもHondaJet飛来のニュースが世間をにぎわせていますね。パイロットも含めて7人が搭乗できるHondaJetも、VLJの一種です。
ホンダ エアクラフト カンパニーの藤野道格氏が、世界の航空機設計者にとって最も栄誉あるエアクラフト デザイン アワード 2012を受賞するなど、HondaJetはデリバリー開始前から既に世界的に高い評価を受けています。
2015年3月27日(現地時間)、ホンダ エアクラフト カンパニーの発表によると、HondaJetの安全性および耐空性がFAA(米国連邦航空局)の基準を満たしていると認定され、事前型式証明を取得したそうです。デリバリーまでもう間もなくですね!
さて、HondaJetと同じくVLJに分類される、シーラス社が開発した小型単発ジェット機「Vision SF50」も、2015年末(予定)のデリバリー開始まであと1年を切りました。
先日このブログでは、シーラス・エアクラフト社の共同創立者/CEOであるDale Klapmeier氏が『Flieger Magazine』誌に寄せた、Vision SF50の開発秘話をご紹介しました。
その第二弾として、Vision SF50の開発チーム主任であるPaul Brey氏が筆を取り、機体のデザインに焦点を当ててVision SF50開発の道のりについて語りました。今回は、その談話をご紹介したいと思います。
単発ジェット機という、これまでのビジネスジェットとは一線を画した斬新なデザインは、どのようにして誕生したのでしょうか。
Vision SF50のデザイン計画が本格的にスタートしたのは、2001年のことです。
開発チームは、既に市場で成功を収めているジェット機の傾向を踏襲せず、まったく新しい航空機を開発する決意をしました。
シーラス社は、単にジェット機のマーケットに参入したかったわけではありません。マーケットに革命を起こしたかったのです。
みなさん、"ビジネスジェット"というと、エアラインの旅客機をそのまま小型にしたようなイメージがあるのではないでしょうか。
しかしVision SF50は、シーラス社のプロペラ機「SRシリーズ」を基に開発されたジェット機です。そのためVision SF50は、自家用の小型プロペラ機の特徴を多く引き継いでいます。
たとえばVision SF50は、自家用単発のパイロットライセンスを持っていればオーナー自身が操縦することができるため、専門のパイロットを雇う必要がありません。また翼幅がSRシリーズの機体とほとんど変わらないため、一般的な小型機用の格納庫に格納することができます。
ビジネスユースにも耐えられるジェット機としての性能を持ちながら、自家用の小型プロペラ機のような感覚で所有できる ―――
Vision SF50は、これまでのビジネスジェットのマーケットには存在しなかった画期的な機体になりました。
Vision SF50をデザインするにあたって、開発チームは、まずキャビンのデザインに取り掛かりました。
小型プロペラ機とほとんど変わらない大きさの機体でありながら、キャビン内には少なくとも5人の大人が快適に過ごせる空間を作る必要があります。また、パイロットが操縦する際の快適性も考慮しなければいけません。
これらの点を考慮した結果、Vision SF50には、従来のジェット機に多く見られるような円柱型ではなく、卵型のキャビンが採用されました。
標準ではパイロットを含めて5人が搭乗できますが、オプションで6・7人目の座席を取り付けることもできます。また、座席配置には様々なバリエーションがあります。
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キャビンのデザインが固まると、開発チームはエンジンの選定に入りました。
開発が中断されたものも含め、VLJ (Very Light Jet, 超軽量ジェット機)の飛行実績は豊富にあります。そのため、小型のジェットエンジンについては、十分に信頼性が証明されたものがいくつかありました。
その中からVision SF50の開発チームが選定したのは、ウィリアムズ・インターナショナル社のFJ33というエンジンです。
搭載するエンジンは特別なものではありませんが、Vision SF50には、同等のエンジンを搭載した他のVLJと決定的に違うところがあります。
Vision SF50はエンジンを1基しか搭載していないのです。
エンジンはキャビンの背中の部分に取り付けられていますが、この"バックパック"構造は、構造の単純化、作業の際のアクセスの良さ、異物を吸い込むことによるエンジン損傷の回避など、様々なメリットがあります。
そして尾翼には、目の前にあるエンジンの排気が干渉しないように、V字翼を採用しました。
単発ジェット機というのはとても大胆なアイデアです。
シーラス社の開発チームはこれにより、小型プロペラ機とほとんど変わらない大きさの機体に、ジェットエンジンならではのパワーと速度を与えることに成功しました。さらに、高額なエンジン整備にかかるコストは、双発ジェット機の半分に抑えられるようになりました。
エンジンがひとつだけ、というと、安全性に不安を感じるかもしれません。
しかしウィリアムズ・インターナショナル社のFJ33は信頼性のある優れたエンジンです。そして万が一のときに備え、Vision SF50は、SRシリーズにも搭載されている緊急用パラシュート「CAPS」を標準搭載しています。
これによってエンジンを2基搭載した双発のジェット機に勝るとも劣らない安全性が確保できているのです。
VLJ (Very Light Jet, 超軽量ジェット機)と呼ばれる小型ジェット機の開発には、アメリカの市場を中心に大きな関心が集まっています。
現時点で顧客への引き渡しが完了しているVLJは、いずれも従来のビジネスジェットをそのまま縮小したような保守的な設計をされていました。
そんな中で、キャビンの上に1基のタービン・エンジンを搭載するというVision SF50のスタイルは、他のVLJとはまったく異なるものです。
Vision SF50の開発チーム主任であるPaul Brey氏は "Vision SF50は新しいカテゴリーを創出した" と言います。
Personal Jet ―― そう、本当の意味での「自家用」ジェット機です
"すでにVision SF50に対する期待と関心の声が続々と寄せられているが、市場の流れを変えるこの斬新なジェット機がどのような地位を築くのか、それは私にもまだわからない"
シーラス・エアクラフト社の共同創立者/CEOであるDale Klapmeier氏は、そう語っています。
Vision SF50は2015年末にデリバリーを開始する予定です。まったく新しいスタイルを選択したVisionの今後に期待が膨らみますね!