
みなさま、こんにちは。鹿児島航空機整備センター 整備担当です。
今回は、私たちの工具、特にトルク・レンチについて話題にしたいと思います。
飛行機でも、船舶でも、車両でもなんでもそうでしょうが、「整備」という仕事をしていると、締付けトルクと適切な締付け方というのはずっと付いて回ります。
まして、航空機ではトルクの管理が厳しくて当たり前ですし、脱落は航空機の安全にかかわることはもちろん、落下した場合、地上への不安全要素ともなり得ます。
僕ら整備士にとって締付けトルクは、整備マニュアルに記載され指示されるものであり、その記述に従って締付けることが当然なのですが、締付けトルクは、実は航空機製造者によってさまざまな方法で管理されているのです。
ある航空機製造者は、航空機用アルミニウムや合金鋼の材料データから(MILハンドブックのような特殊な規定でしか材料のデータがない)、設計上、締付けにあたって破断応力を計算から求めて、さらに取付に使用するボルトやスクリューの材質、おねじ、めねじのせん断応力と比較し、安全側に7~8割見積もった値を設計で「締付けトルク」として採用するなどしています。これはいわば通常のやり方、王道ですね。
そのほかにも、ボルトやスクリューの材料の降伏点をあらかじめ想定しておき、ボルトの伸びを実際に計測することによって、ボルトを締めつけたときに降伏しない安全側に余裕を持たせて、その状態まで引っ張る「ボルト・ストレッチ」もあります。
また、取付面とナット面がシートした状態(スナッグ・トルク)から回転させる角度を指定して締付けを管理する方法もあります。
タッピングの場合、締め付け回転力とめねじの強度の中間に設定する、なんていうのもありますね。
さて、JGASの現場業務では、業界でもまだ珍しいデジタル・トルク・レンチなるものを使用して、日々、締付け作業を行っています。
リミット式トルク・レンチになじんできた私は、このデジタル・トルク・レンチの導入当初は違和感がありましたが、いまではすっかりデジタル式に慣れました。
使ってみて思ったことは、今まで以上に回転中に気を遣うようになったということでしょうか。
"ダイヤル式を使っているとき、針を目で追うときの感じ"と言うと伝わりますでしょうか。
恥ずかしい話ですが、回転中一定の力をかけて回していたつもりだったのですが、レンチのディスプレイに現れるデジタルの値の変化を見ていると、いままで割と雑だったんだなあと思い知らされました。
このデジタルを使うと、リミット式の時のような「ピークでのホールド」と、ダイヤル式のような「リアルタイムの値がわかる」という両方の利点が得られます。
それから軽量です。使っていて楽ですよね、振り回すわけではないにしても、軽いのはやっぱり楽です。
ひずみゲージみたいなセンサーが内蔵されているらしく、重たい感じがない。また自分で自己診断しており、毎回電源を起動するたびにもレンチ自身がセルフ・テストしてくれます。
もうひとつ、換算が楽です。NM、DNM、KG-CM、FT-LB、IN-LBボタン一つで切り替えてくれます。
実は「締付けトルク」を指示するトルク法というやり方には、2つの心配事があります。
ナットがねじをまわってゆくときの摩擦の抵抗がいつも同じではなくばらつくこと、さらに締付け作業のばらつきがあることですね。
特に航空機用ナットはセルフ・ロッキング・ナットが大変多く使用されており、セルフ・ロッキング・トルクを考慮する作業もあるのです。
締付け作業のばらつきは、デジタル式を使いだして判ったことですが、リミット式で作業していた時は、割とオーバー・トルク気味だということですね。
使い慣れたリミット式でも、リミットがかかる直前・直後はリミット機構の効くまでの時間的な差といいますか、ごくわずかな内部機構の滑りを感じていたわけです。
いまJGASで使用しているデジタル式はレンチのサイドにLEDがあり、表面のディスプレイとは別にLEDが締付け全体のうち、いまどの程度締付けているか、進行度を黄色い光で知らせてくれます。
ここがじつはミソでして、リミット式のわずかな滑りを感じさせない一定の力の掛け具合といいますか、レンチの送り速度と言いますか、ずっと一定で継続するよう促すわけです。それで、締付けトルクのピークに到達すると、LEDは緑色を発光し、かつ“ピー”という割とうるさい音声でも知らせてくれるのです。締付け作業の安心感が違うわけです。
もちろんデジタルなので、1in-lbでもオーバー・トルクすれば、赤く光って知らせてくれます。ちなみに、内部にメモリがあって、どういう使用をしたか記録されており、USBを介して内部の記録を取り出すこともできるようになっています。
さて、工具シリーズの話題、第一弾でしたが、いかがだったでしょうか。JGASのツールもますます充実していきます。
時代と共に変って便利になってゆく工具たちに負けないよう、使う人間も日々勉強ですね。これからも一締入魂でがんばろうと思う整備担当でした。