
残暑が続いてますが皆様いかがお過ごしでしょうか?
今日は東京の整備技術担当がブログをお送り致します。
技術が発達した今、私たちはテレビやインターネットから様々な情報を知ることができるようになりました。航空業界の情報も何かあればスグにニュースで知ることができますね。
最近もJAL006便が離陸直後にエンジンが故障し、緊急着陸したというニュースが日本中を駆け巡ったのは皆様もご承知かと思います。
みなさんはこのニュースを見て、どう思われましたか?
「やっぱり飛行機って危ない・・・」そう思われた方も多いのではないでしょうか?
実は、我々のようなエンジニアは真逆の気持ちかもしれません。「やっぱり最近の飛行機って安全なんだ」と感じてしまいます。
なぜ、そう思ってしまうのかB777型機のシステムを紐解いてみたいと思います。
報道をみると、離陸中に左のエンジンに不具合が発生したようですね。
B777-300ERという飛行機は、GE90-115Bという現時点では最強クラスの猛烈に強力なエンジンを左右に1個づつ付けています。1発で11万5000ポンドという推力です。一回り小さなボーイング767という飛行機のエンジンの推力は5~6万ポンド程度ですから、単純に倍のパワーを持ったエンジンなのです。
飛行中に片方のエンジンが停止するとどのような現象が発生するのでしょうか?
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FAA Airplane Flying Handbook(FAA-H-8083-38)より |
この絵と同じ現象がボーイング777に発生しました。
エンジンが停止すると、止まったエンジンは「ただの抵抗」でしかありません。右のエンジンだけで飛行することになるわけです。
そうすると・・・機首は左に大きく振ろうとしてしまいます。
B777型機は・・・というと、Thrust Asymmetry Compensation(スラスト・アシメトリー・コンペンセイション:TAC)というシステムが自動的に作動し、左を向こうとする飛行機の動きを自動的に修正します。パイロットが何をせずとも、飛行機が真っ直ぐ飛ぼうとしてくれるのです。
そして、上昇率は小さくはなってしまうものの、何事も無かったかのように上昇を続ける事ができる能力を飛行機は持っているのです。
その後、洋上へ出て燃料を投棄していましたね。
ニューヨーク行きのボーイング777は20万ポンドを超える燃料を搭載します。
そのまま着陸したのでは「最大着陸重量」という規定の重さを超えますから、重量を早急にそれ以下にできるように、長距離を飛べる飛行機にはFuel Jettisonシステムという燃料を放出する装置を備えています。これを使って安全な重量まで、燃料を減らすことができるのです。 空中で燃料を放出しても、気化しますので、定められた高度以上で放出すれば地上に降り注ぐことはありません。
あとは、着陸するだけなのです。
飛行機の技術はこの数十年間で大きく進歩しました。
もちろん、過去に起きた事故という大きな犠牲のもとで積み上げられてきた技術です。
例えば、御巣鷹山に墜落したジャンボは油圧システムがすべて故障し操縦不能になりました。あの事故後に「チェックバルブ」という装置が油圧システムに組み込まれ、どこかのラインが切れたとしても油圧が生き残るように改修されました。
このように現代の航空機は、昔と比較して別物のように安全になっています。
機械は故障が付きものです。故障しない飛行機が将来誕生するかもしれませんが。故障したときに安全に着陸できるよう、何重にもバックアップが備えられています。今回の一件も適切に整備が実施されていたからこそ、バックアップがしっかり働いてくれました。
しかし、どれだけ技術が進歩したとしても、事故をゼロにすることは難しいのも事実です。航空機事故が絶対発生しない世の中になることを願う今日この頃でした。