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星型エンジン用のプロペラ

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星型エンジン用のプロペラ

みなさま、こんにちは。JGAS鹿児島航空機整備センター・整備担当です。

先日、当センターで(株)ゼロエンタープライズジャパン様よりお預かりしている零戦のプロペラの取り外し作業を受託しました。

プロペラ先端にダメージを発見したため、アメリカで修理を行います。


この「零戦里帰りプロジェクト」については、下記Web Siteをご覧ください。
https://www.facebook.com/zrosatogaeri

零戦のプロペラ

零戦は1940年代の飛行機。なにしろ”耐空性審査要領”という「航空機はこんな設計でなければならない」といった内容の書かれた設計基準ができるよりずっと以前の、しかも軍用機ということで、なかなか貴重な体験でした。

この零戦のエンジンとプロペラは、オリジナルの栄エンジンと住友プロペラではありませんが、寸法はよく似たものなので、「往年の零戦もきっとこんな風に作業したのかな?」と、少しノスタルジアな気持ちにもなりました。

この零戦は、日本の空を飛ぶことを目的に里帰りをしています。

しかし、日本で零戦を飛ばすことは容易ではありません。

航空法第11条には「航空機は、有効な耐空証明を受けているものでなければ、航空の用に供してはならない」とあり、安全性等が技術上の基準に適合することの証明を受けた航空機でなければ、日本の空を飛ぶことはできないとされています。耐空性審査要領が策定される以前の機体、かつ軍用機である零戦が、この耐空証明を取得することは現実的ではありません。

ところが航空法第11条には、上記の記述に続いて「但し、試験飛行等を行うため国土交通大臣の許可を受けた場合は、この限りでない」と書かれています。

弊社はこの”航空法第11条但し書き”でのフライトを行うための申請や作業をゼロエンタープライズ様より受託していますが、飛べるかどうかはあくまでも所轄官庁の国土交通省の判断となります。

この零戦はアメリカの空を飛んでいたアメリカ国籍の飛行機ではあるものの、日本で組み立てるとなると、日本の航空局の審査を通過しなければなりません。 

「安全に飛行できる航空機である」ことを根拠をもって示すことができて初めて国内でのフライトが可能になります。


さて、ここからはちょっと専門的なお話になります。


実はこのプロペラ、現代の小型機のようにプロペラ・アッセンブリーとして取外しができず、ドームと呼ばれる先端の「ピッチ変換機構/ピストン/オイル保持室」のアッセンブリーを取り外さなければプロペラ・ハブを締め付けているナットにたどり着けません。

ドームを取外しますと、ディストリビューター・バルブ(通称:スタークなどとも呼ばれます)が見えてきます。このバルブがプロペラ・ガバナーと併せてドーム内部で油路を形成し、ピッチ変換を行います。

プロペラの整備解説

カウンターウェイトはなく、ガバナーで昇圧された油圧力で高ブレード・ピッチになります。

一方、低ピッチは、遠心ねじりモーメント+エンジン・オイルの油圧力を利用しています。

プロペラの整備解説

一般的に現代の小型機のプロペラは低ピッチ・スプリングが組み込まれていて、油圧力が減少すれば、低ピッチになります。これらの大きな直径のプロペラに比べ、単純な構造にすることで、小型・軽量にすることができるのです。

ただ構造の基礎的な技術は、ほとんど何も変わっていないことがわかります。いまは一部の小型機でも、コンピューター制御で、エンジン出力もプロペラ・ピッチも同時に精密に制御される機体も登場してくるようになりましたが、プロペラ内部はほとんど同じなのですね。

ロック・リングや、シム、向き、合いマークなどに注意しながら順序良く分解してゆき、ようやくハブ内部が見えてきます。ハブのリテーニング・ナットがエンジン・プロペラ・シャフトに締め付けられています。なんと、「センター・ナット止め」なんですね!

コーンと呼ばれる、ベアリング・カップ状の斜めのスラスト面が、ハブの内部のスラスト面と面接触しています。このナットが750Ft-Lbという、とても大きなトルクで締まっています。このため、緩めるのも一苦労です。特殊な専用工具に、合金鋼の棒を差し、アームを延長して押し上げます。棒をハンマーで叩き、振動を与えてやっと緩みました。


そういえば私が航空整備士として駆け出しのころお世話になった師匠の整備士から、よく戦闘機や爆撃機の話を聞きました。その方はDC-3(逓信省・零式輸送機)や1式戦(陸軍・隼)、T-6(米海兵・SNJ)などに従事していたそうです。この師匠から、大きなトルクは振動を与えてやるとナットが緩むと教わった気がします。

師匠も昔、こうやって仕事していたのだろうなあと久々に思い出しました。

零戦のお手伝いもしつつ、日々整備センターの充実を図る整備担当でした。

 

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