
運航本部長の山口です。連載3回目となる本ブログですが、お愉しみいただけておりますでしょうか。今回は、組み立てが完了した民間航空操縦士訓練学校が導入する操縦訓練装置(フライトトレーニング・デバイス/Flight Training Device:FTD)に電源を入れてみましょう。
① 鮮やかでリアルな桜島に驚く
REDBIRD LDの起動は簡単です。善くも悪くもただのパソコン(OSはWindows 7 英語版)ですから、本体の電源ボタン1個をポンと押すだけ。OSが起動したらFTDソフトウェアが自動的に起動し、シナリオ選択画面が現れます。ここまで僅か数分。他社のFTDでは、起動に特別な手順を要し、実際に使えるまで十数分かかる機種も珍しくなく、その準備の手軽さに驚きました。
シナリオとは訓練場所(離陸する滑走路の設定や上空での開始設定も可)や気象状態等を予め設定しておくもので、教育訓練計画(シラバス)に応じて、訓練生自らが(又は教官の指示により)使い分けることができます。
さっそく鹿児島湾上空を飛行開始場所に設定し、桜島を望む飛行をテストすることにしました。LDは6枚のディスプレイで、左右200度のビジュアルを表示できます。左右端のディスプレイには翼の一部が表示され、正面には桜島が現れました。
![]() |
桜島の南側から北に向かって飛行中の様子。正面に見えるのが桜島。ちなみに操縦しているのは弊社整備士さん。只野校長はすでに教官モードに入っています(笑 |
REDBIRD LDはディスプレイ・パネルが小さく、しかも近距離に置かれているため、他社のFTDでよく使われているプロジェクタを用いた大スクリーンや大画面モニタに比べ臨場感では劣るだろうなと思っていましたが、実際に体験してみるとまったく違和感がない。正面のグレアシールド(計器盤直上の覆い)と一体化しているため、まさにそこに窓があるかのような錯覚に陥るほど。機体の挙動に応じた風景の動きもスムーズで、敢えて小さなパネルを選択したのだろうと納得しました。もちろん、FTD全体をコンパクトにできるのも、この小さなパネルのおかげ。
シーラス機独特のサイド・ヨーク(左手のみで操縦する)とラダー・ペダルによる機体のコントロールも良好で、計器や風景との連動も違和感がなくスムーズ。想像以上の出来ばえに皆で驚くと共に、最終的な購入を決定した私も良い選択だったと安心しました。
② 教官用端末もシンプル
飛行状況の設定・変更を行う教官用端末(PC)もご覧のとおり。風を吹かせたり雲をたなびかせたりはもちろん、特定の計器を故障させることも、サーキット・ブレーカーをポップアップ(実際にパチンと音を立てて飛び出します)させることもできます。
![]() |
只野校長の手前に置いてあるノートパソコンが教官用端末。FTD本体とはLANケーブルで繋がっています。 |
また、この端末では訓練生の飛行経路(平面図、断面図)も記録できます。実際の飛行経路をグラフィカルに表示できるため、訓練後のブリーフィング(指導)に役立ちます。
加えて、上記写真の右上隅を注意深く見て下さい。小さなカメラが取り付けられていることに気付くでしょうか。
民間航空操縦士訓練学校では、教育訓練の早い段階からCRM(Crew Resource Management)を意識させることとしています(CRMはTwo Men Operationのためだけに在るのではない)。また計器飛行証明課程や事業用操縦士課程においてはLOFT(Line Oriented Flight Training)も実施する予定です。それぞれの解説は専門的になり過ぎますのでここでは割愛しますが、いずれもより安全な運航を目指して実施される訓練で、特にLOFTはエアラインにおけるシミュレータ訓練では必須です。
この小さなカメラで、コックピット内の様子をすべて録画することができます。LOFT訓練に必須の機能が、このFTDには装備されているのです。
③ 飛行の様子を再現できるInsightオプションを装備
民間航空操縦士訓練学校のLDには、オプションで追加できるInsight(インサイト)機能を装備させました。この機能は、FTDによる飛行全体を記録し再現できるというもの。しかも、複数のビュー(視点)を切り替えること(例えば、パイロットの目、飛行機の直上後方など)もできます。コックピット内のビデオ撮影も同時に行われますから、訓練後に訓練生自らが自分のフライトを客観的に評価することが可能です。
![]() |
アウトサイド・ビュー(飛行機の外部後方)で飛行を再現させているところ。右上部分にビデオ映像が表示される(カメラを正しく設置しなかったため、映像自体はコックピット内ではない) |
訓練は、ただやみくもに頑張ればよいというものではありません。まず事前の準備(もちろん勉強を含む)をしっかりとやり(Plan)、実際のフライト(FTDを含む)で学んだことを確かめ(Do)、フライト後は改めて自分の操縦を振り返り(Check)、反省点を次回に生かす(Act)。この繰り返し(PDCAサイクル)ができない人は、どんなに必死になって頑張ったとしても、プロのパイロットにはなれません。
Insightオプションは、PDCAサイクルのうち、特にCheckフェーズにおいて有益な機能を訓練生に提供します。
民間航空操縦士訓練学校は、精神論でプロのパイロットを育てようとは考えていません。もちろん、強い意志を持ち続けることも、自分を信じる力も大切です。いいからまずやれ、やればできる!とハッパをかけることもあるでしょう。
それでも、民間航空操縦士訓練学校はシステマティックに、論理的に訓練を提供します。何かが上手くいかなかったら、それには必ず原因がある。原因を突き止め解消できれば、より効果的な訓練ができる。原因の解明は、必ずしも常に可能ではないけれど、少なくとも原因の探求に役立つシステムは準備しておきたい。民間航空操縦士訓練学校のこのような姿勢はFTDの機能選定からもご理解いただけるのではないでしょうか。
次回は最終回。ちょっと軽いお話なども交えて連載を終えたいと考えています。もう少々、お付き合い下さい。